こんにちわ。sakuranokiiです。
大学院入試の過去問分析シリーズ第3弾は無機化学の頻出問題を解説いたします。
化学専攻の受験生は「覚えることがたくさんある有機化学」と「理解するのが難しい物理化学」の2科目を勉強するだけで手一杯の方が多いのではないでしょうか?
とはいえ、無機化学も院試に出題される重要科目ですので手抜きはできませんよね(笑)。
本記事で紹介する無機化学の頻出問題を把握しておけば、無機化学の院試対策を効率よく進めることができます。
無機化学だけでも対策を最速で終わらすことができれば、院試勉強のスケジュールがかなり楽になると思いますよ。
前記事同様に、出題頻度ランキング形式で調査結果を解説します。
第1位:d軌道のエネルギー準位図と電子配置


無機化学で1番出題される問題って何?
無機化学で1番出題される問題は「d軌道のエネルギー準位図と電子配置」についての問題です。
2位以下を大きく突き放しての1位です(笑)。
遷移金属に関する問題は無機化学では最もよく出題されますが、その中でもd軌道のエネルギー準位図に関する問題は非常によく狙われますね。
頻出問題は下記です。
①配位子場理論
*配位子の種類によるd軌道分裂の違いに関する問題や配位子場安定化エネルギーの計算問題が頻出
②構造によるd軌道の分裂の違い
*8面体型、4面体型、平面4角形型錯体のd軌道分裂の違いを問う問題が頻出
③磁性のあるなしや磁化率の大小
*d軌道の電子配置からスピン多重度を計算し磁性に関する問題に答えさせる形式が頻出
出題される問題は基本的に上記3パターンのどれかですね。
取り上げられる錯体は多種多様なので、どんな錯体が出題されても大丈夫なように基本原理を押さえましょう。
対策としては下記が良いかと思います。
・配位子の性質によりd軌道の分裂がどう変わるか(配位子場分裂パラメーター)を押さえる
・その他d軌道の分裂を支配する要素(錯体の構造、中心金属の酸化数、配位形式)についても理解する
・配位子場安定化エネルギーの計算方法も押さえておく
・d軌道の分裂が錯体の磁性に与える影響(高スピンor低スピン型配置等)を知っておく
まずは代表的な錯体がどのようなd軌道分裂になるのかを覚えることから始めましょう。
過去問演習などを通じて、分裂の仕方を考えることに慣れてくるとどんな錯体に対しても対応できるようになりますよ。
d軌道のエネルギー準位図は他の単元にも関わるのでしっかり理解しておきましょう。

無機化学の試験では物理化学で出題されそうな問題も出ます。例えば、標準電位の計算問題や点群などですね。無機化学の勉強が物理化学にも活きることがあるので一石二鳥ですね。
第2位:イオン結晶の構造


2番目に出題される問題って何?
2番目に出題される問題は「イオン結晶の構造」です。
1位には及ばないもののこちらも非常によく出題されます。
無機結晶の構造に関する問題はほぼこれですね(笑)。
頻出問題は下記です。
①単位格子に関わる計算問題
*単位格子中のイオン数、イオンの配位数、イオン半径、イオン間距離、充填率、格子定数、格子エネルギーを計算させる問題が頻出
②結晶構造の種類と違い
*MX型イオン結晶のブラべ格子の種類は何かを答えさせる問題が頻出
*2つのイオン性塩の間で結晶構造にどのような違いがあるかを問う問題も頻出
出題される問題は基本的に上記2パターンのどちらかですね。
出題されるイオン結晶としては金属塩化物(特にNaCl型)が多いですが、酸化物やハロゲン化物も出題されます。
対策としては下記が良いかと思います。
・単位格子に関わる計算問題は典型的な問題を反復練習し解き方を理解しておく
・ブラべ格子の種類と各格子の特徴および代表例を覚えておく
イオン結晶の構造に関係する問題は知識や解き方を覚えておけば特に難しくないかと思います。
しっかり対策しておけば、安定した得点源になりますよ。

大学院によっては無機化学と分析化学を合わせて1科目としているところもあります。分析化学よりの問題としては、酸解離定数やpHの計算問題が出題されることが多いです。科目名が無機・分析化学になっている場合は要注意です。
第3位:d-d遷移


3番目に出題される問題って何?
3番目に出題される問題は「d-d遷移」に関する問題です。
1位と同じく遷移金属関係の問題からランクインしました。
それだけ遷移金属化学は無機化学で重要ということですね(笑)。
頻出問題は下記です。
①遷移金属錯体の発光現象
*錯体の光吸収に関する問題は基本的にd-d遷移の問題(たまにLMCT遷移もあり)
*ある錯体でd-d遷移由来の発光が起こるか起こらないかを問う問題が頻出
②d-d遷移の特徴
*モル吸光係数が小さい理由や吸収帯が幅広くなる(ピークが複数出る)理由が頻出
*ランベルト・ベール式から実際にモル吸光係数を計算する問題もよく出る
d-d遷移は遷移金属錯体に特有の現象であり、有機分子でよく見られるπ-π*遷移とは異なった特徴がいくつかあるためそこがよく狙われます。
また、d-d遷移について考えるためにはそもそもd軌道のエネルギー準位図と電子配置が書けないといけません。
したがって、対策としては下記が良いかと思います。
・d軌道のエネルギー準位図と電子配置に関する問題の対策をまずは実施する
・d-d遷移の特徴は何かとその特徴の原因について理解しておく
・ランベルト・ベールの法則についても押さえておく
d-d遷移に関する問題で聞かれることはある程度決まっているかと思います。
上記の頻出問題にしっかり対応できるように準備しておけば大丈夫でしょう。

無機化学は他の科目に比べて「知らないと絶対分からない系の問題」が多い印象があります。特に無機工業化学の問題はそうですね。無機化学で分かりそうにない問題に出会ったらさっさと飛ばして別の解けそうな問題に時間を使いましょう。
第4位~15位を一挙解説


その他にはどんな問題が出題されるの?
最後に、出題頻度4位~15位までを一挙ご紹介します。
ベスト3には入りませんでしたが、どれも重要な単元なので時間がある人はしっかり押さえておきましょう。
〇頻出問題:半反応式と全反応式の記述、標準電位計算、ラチマー図・フロスト図の作図
〇対策:典型的な陽極反応/陰極反応を覚える、ネルンストの式を理解する、元素の酸化数と電位の関係性を作図できるようになる
〇頻出問題:立体異性体を含めた構造式の記述(たまに命名も出題される)
〇対策:Λ(ラムダ)/Δ(デルタ)異性体、シス/トランス異性体、fac/mer異性体の違いを理解する
〇頻出問題:同素体の種類、電子親和力の大小、融点に関する問題
〇対策:P・S・Cの同素体を覚える、電子親和力の周期性を理解しておく、常温常圧で液体の元素や最も融点の高い元素を押さえておく
〇頻出問題:イオン化エネルギーの周期性の理由を問う問題
〇対策:族や周期が異なると元素の有効核電荷の大きさが変化する理由を理解する
〇頻出問題:配位子交換速度の序列(特に水との置換反応が頻出)、配位子交換の機構
〇対策:キレート効果・トランス効果・トランス影響が配位子交換速度に及ぼす影響を理解する、水和エンタルピーが大きい金属の特徴を押さえる、会合機構と脱離機構の違いを理解する
〇頻出問題:金属の形式酸化数やd電子数と合わせて価電子数を答えさせる問題
〇対策:18電子則を理解する、配位子が2電子供与型or1電子供与型なのかを判断できるようになる
〇頻出問題:高酸化状態のハロゲン(BrF5やClO2など)の構造記述
〇対策:中心電子の占有度と構造の関係(例:占有度2→直線形分子)を押さえる
〇頻出問題:金属元素の電子配置
〇対策:d軌道よりも先にs軌道に電子が入ることを押さえておく
〇頻出問題:バンド構造の説明、n型とp型の違い
〇対策:不純物添加で電気伝導率が変化する理由を理解しておく
〇頻出問題:ハロゲン化水素の沸点
〇対策:ハロゲン化水素の沸点を覚えておく、HFが常温で液体の理由は押さえておく
〇頻出問題:COのπ*軌道とd軌道の相互作用に関する問題
〇対策:π逆供与の様子を軌道図で説明できるようになる、IRやNMRを用いた逆供与の程度の評価が中心金属の酸化状態の推測に利用できることを押さえておく
〇頻出問題:ハードorソフトな酸塩基同士の相互作用が強い理由
〇対策:ハード(硬い)・ソフト(柔らかい)とはどんな軌道を有する原子団を意味するのか理解する
1位~15位までばっちり対策できれば、無機化学は合格点を取れると思いますよ!

筆者は有機化学と物理化学を中心に勉強しており、その2科目に比べると無機化学はあまり勉強しませんでした。ですが、上記の頻出問題は解けるように勉強していたおかげで、本番は無事乗り越えることができましたよ。
まとめ
いかがでしたでしょうか?本記事の内容をまとめると下図のようになります。

無機化学は知識の量がそのまま点数に直結する印象があります。
知っているか知らないかで大きな差がつくので、少し怖い科目にも思えますね(笑)。
ですが、前向きにとらえれば、知識を増やせば増やすほど高得点を取れる可能性が上がるので、無機化学は勉強の成果が出やすいと言えます。
本記事で取り上げた単元を中心に、知識量を増やすことを意識して勉強しましょう。
以上、ご参考になれば幸いです。
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