こんにちわ。sakuranokiiです。
博士課程への進学を考えている方はこんな疑問をお持ちではないでしょうか?

文部科学省が博士課程学生への支援を強化するって話を
最近聞くけれど、具体的にはどんな支援制度が始まるの?
2021年1月下旬の日本経済新聞「博士課程学生に生活費240万円 政府、7800人に支援」という見出しの記事が話題になりました。
文部科学省が博士課程に進学する学生の経済的支援を強化するという話ですね。
これまでにないほど大規模な支援策であるため、大学院に在学中の学生なら小耳にはさんだ方も多いのではないでしょうか?
あれから約半年ほど経過しましたが、現状どうなっているか、そもそも具体的にはどんな取り組みが始まるのかを知りたい方は多いと思います。
というわけで、本記事の内容は下記のとおりです。
●テーマ
政府が今年度から始める博士課程の経済的支援策の具体的内容と現状
●主旨
博士課程の経済的支援がより一層充実することを伝え、経済的理由で博士課程進学をあきらめる学生が減ってほしい
●読んでほしい人
博士課程に興味がある方、経済的理由で進学するか悩まれている方
新たな支援制度の背景と方針


まずは新たな支援制度の概要が知りたい!
始めに文部科学省がスタートする新たな支援制度の概要を説明します。
令和2年度文部科学白書第1部の特集「研究力向上のための若手研究者への支援」を参考にして、本取組の背景にある課題とその解決方針を下記にざっくりとまとめました。
●背景
・将来の科学技術・イノベーション創出のために若手研究者の支援は必要不可欠
・博士課程学生を含む若手研究者が研究に専念できる環境の整備が非常に重要な課題
●解決方針
・10兆円規模の大学支援投資ファンドを創設し、その資産運用益を安定した研究用財源として利用する
・大学ファンドが軌道に乗るまでの間、まずは博士課程学生支援の抜本的な拡充を目指した新制度を令和3年度からスタートさせる
・その新制度では約7,800人を経済的に支援し、今までの支援(特別研究員など)と合わせて約15,000人の博士課程学生への支援を早期に実現する
日本経済新聞等で話題になった部分は令和3年度から始まる新制度のことですね。
新制度と今までの支援制度を組み合わせれば、修士課程からの進学者の約5割に相当する学生が十分な経済的支援を受けることになるそうです。
今後、博士課程に進学する予定の学生方にとっては朗報ですね。
ただし、文部科学省の真の目的は大規模な大学支援投資ファンドの設立です。こちらに関しては最後に詳しく解説します。
次節からは令和3年度に始まる新制度とは一体何かを解説していきます。

博士課程の学生は全体で約75000人で、そのうちの約7400人が生活費相当額(年180万円以上)の経済的支援を受けています。今回の新制度で十分な経済的支援を受ける学生が今までの2倍以上に増えると考えると、新制度がいかに大規模な取組であるかが分かると思います。
具体的な支援策①


令和3年度から始まる新制度は具体的にどんな内容なの?
文部科学白書特集「研究力向上のための若手研究者への支援」によると、令和3年度から始まる新制度は大きく3つの取組に分かれています。
1つ目は「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業」です。
本事業はすでにスタートしており、もしかしたら知っている方もいるのでないしょうか?
本事業の概要を下記にまとめました。
●事業内容
・博士課程学生への生活費相当額の支援を含む学内奨学金の創設と、博士課程学生の研究力向上・就職支援を行う大学を支援する事業
・支援対象の学問分野は応募大学が提案するボトムアップ型と国が指定する分野指定型(情報・AI、量子、マテリアル)の2つのタイプとし、計55件程度採用する
・採用された大学は学生への経済的支援および奨学金制度の運営費の3分の2が国から支給される
●学生への支援内容
・年間200~250万円の生活費および研究費の支給(例:生活費月15万円+研究費年50万円)を最大3年間支給
・学生の研究力向上のための支援(例:関係機関との共同研究など)
・キャリアパス確保を目的にした様々な就職支援(例:企業関係者との研究発表会や企業へのインターンシップなど)
●応募可能学生
・奨学金受給開始時で博士課程の1年生である学生
・日本学術振興会の特別研究員との併用は不可
●学生の選考方法(令和3年度分はすでに終了)
・各大学が独自設定(例:大阪大学では書類選考と面接)
・3月下旬~4月に選考実施(各大学で時期は少し異なる)
●採用学生の義務
・大学の規定によるが、例えば研究活動の取組状況報告やメンターとの面談など
●採用された大学と人数
・47大学で合計約1000人(各大学の詳細はこちらから)
博士課程進学予定の修士課程2年生は5月に特別研究員に応募し、ダメなら3~4月にこの大学フェローシップ創設事業に応募するのが鉄板になりそうですね(笑)。
博士課程に興味がある方は自分の大学が採択されているか、どんな募集要項か1度確認してみましょう。

本事業は今後博士課程に進学する学生の方々を対象にした支援であり、現役の博士課程の方々は残念ながら対象外です。現在修士課程2年生で博士課程への進学を考えている方は来年ぜひ応募してみてはいかがでしょうか?
具体的な支援策②


残りの支援制度の内容はどうなの?
残りの2つの取組はそれぞれ「次世代研究者挑戦的研究プログラム」と「創発的研究支援事業におけるRA雇用支援の拡充」です。
これらの新たな取組について、現時点で分かる情報をまとめました。
●事業内容
・既存の枠組みにとらわれない自由で挑戦的・融合的な研究を実施する博士課程学生の経済的支援および就職支援を行う大学を支援する事業
・採用された大学に学生への支援に必要な経費の4分の3をJSTが支給
・1学生あたり年間最大約70万円も支給し、大学の事業統括は個別に支援内容を調整する
・研究分野の指定はないが、各大学1件(事業統括1名)のみ申請可能
●学生への支援内容
・年間220~290万円の生活費および研究費の支給(例:生活費月20万円+研究費年50万円)を最大3年間支給
・キャリア開発・育成コンテンツの提供(例: 企業インターシップや短期留学など )
●応募可能学生
・博士課程1~3年生
・すでに生活費相当額の収入がある学生は応募不可
●学生の選考方法
・各大学が独自設定
・8月以降に選抜が開始され、支援開始は9月ごろ
●採用学生の義務
・当事業に採用された学生の交流会への参加、JSTからの直接の意見聴取、研究倫理教育に関するプログラム受講など
●採用大学と人数
・現在応募大学の審査中で未決定
・約6000人の博士課程1~3年生を支援予定
次世代研究者挑戦的研究プログラムは8月以降に各大学で博士課程学生の選抜がスタートします。
本事業はもうすぐ始まるので応募したい方は大学院研究科のHPをチェックし、本プログラムに自分の大学が採用されたか確認しておきましょう。
●創発的研究支援事業の内容
・イノベーションにつながる挑戦的・融合的な研究を行う若手研究者(学生は不可)を最長10年間の長期にわたり研究環境の支援を行う事業
・令和2年度に実施された第1回の公募では合計252件の研究課題が採択
・令和3年度でも引き続き公募しており7月末現在は書類選考中
●RA雇用支援の拡充
・本事業に採択された研究者は博士課程の学生を積極的にRA等として雇用する
・RAの待遇は各研究機関の判断によるが、今後、RA雇用に必要な追加支援(生活費相当額=年180~240万円が上限)が実施される予定
創発的研究支援事業は最近始まった制度ですが、本事業に採択される若手研究者は今後さらに増えます。
したがって、本事業におけるRA雇用が拡大すれば、多くの博士課程学生が十分な収入を得ることにつながると思われます。
上記3つの新たな取組が上手く機能すれば、約7800人の博士課程学生が早期に生活費相当額を受給することになるでしょう。

日本は主要国の中で博士号取得数が唯一減少傾向にあります。これに対して、アメリカ、英国、ドイツといった科学先進国に加え、韓国の博士号取得者数はここ20年近くきれいな右肩上がりです。このままでは日本の科学技術力は他国に比べてどんどん見劣りしていくでしょう。
支援は今後さらに充実する


令和3年度の新制度の次はどんな支援をする予定なの?
最初に述べた通り、上記の新制度による経済的支援はあくまで大学支援投資ファンドの資産運用が軌道に乗るまでの対応策です。
この大学ファンドこそが今後最も重要になってくる博士課程支援制度だと思われます。
下記に、大学ファンドの概要を改めてまとめました。
●創設背景
・国際的に日本の大学は財政基盤が脆弱で思うように研究できない点が課題
・加えて経済的不安とキャリアパスの不透明さなどの理由から博士課程進学者数・進学率も低下
・実際に世界における日本の大学の研究力は低下傾向にあり、論文の量・質という観点からも諸外国に劣る状況
●目的
・安定した研究用財源を作り大学の研究力を抜本的に強化する
・運用益で大学の共用施設やデータ連携基盤の整備、博士課程学生の安定的支援を実施する
・2025年度までには生活費相当額を受給する博士課程学生を従来の3倍に増加(修士課程からの進学者数の約7割に相当)させる
・将来的には希望する優秀な博士課程学生全員が生活費相当額を受給できるようにする
●運用計画
・21年度中にまずは4.5兆円規模で運用し、早い段階で10兆円に切り替える
・年利4.38%(3%を研究支援に使用、1.38%は物価上昇考慮分)の運用を目指す
・実際に大学に運用益を配布するのは23年度以降
10兆円の投資ファンドなら3%でも3000億円の研究支援金が手に入ります。
約7800人を支援するための新制度に使う予算が約230億円であることを考えると、3000億円もあれば博士課程全員=約75000人の支援も現実味を帯びてきます。
いかに大規模な大学支援ファンドかが分かりますね。
博士課程学生の経済的支援をするうえで非常に心強い財源になると思います。

大学ファンドはハーバード大学やオックスフォード大学といった海外名門大学ではすでに実施されています。ハーバード大学は寄付で集めた資金をもとにファンドを創設した一方で、日本の大学は寄付金が少ないため、国の支援をもとに実施しているという違いはあります。
まとめ
いかがでしたでしょうか?本記事の内容をまとめると下記のとおりです。
●10兆円規模の大学支援投資ファンドの運用益で博士課程学生の経済的支援を実施予定
●大学ファンドが軌道に乗るまでのつなぎとして令和3年度から複数の新たな取組が始まる
●大きく分けて3つの取組「大学フェローシップ創設事業」「次世代研究者挑戦的研究プログラム」「創発的研究支援事業におけるRA雇用支援の拡充」による経済的支援がスタート
●まずは修士課程からの進学者のうち約5割の支援を達成し、約7割の支援→希望者全員の支援にへと拡大していく予定
博士課程への進学促進は日本の将来の科学技術力を支える上で重要な課題です。
国もそれが分かっているため、これだけの大金を出して博士課程学生の経済的支援策を推し進めているのです。
本記事で紹介した新制度が狙い通り機能すれば、近い将来、博士課程の学生が経済的不安に悩まされることはなくなると思います。
経済的理由で博士課程に進学するか迷っている方はぜひ前向きに検討してみてはいかがでしょうか?
博士課程の未来は明るいと思いますよ。
以上、ご参考になれば幸いです。
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