こんにちわ。sakuranokiiです。
前記事に引き続き、京都大学大学院理学研究科化学専攻の過去問分析結果をご紹介します。
本記事では物理化学の分析結果を共有します。
当該専攻の過去問10年分を分析した結果をもとに、全体の傾向・頻出問題・差がつくポイントを解説します。
本記事を読んで、「京大院卒」という誰もが憧れる日本最強クラスの学歴を手に入れる第一歩を踏み出しましょう!
全体の傾向


まずは全体の傾向から知りたい!
初めに全体の傾向をざっくり掴んでおきましょう。
下図に京都大学大学院の物理化学の各単元の出題割合をまとめました。

様々な単元から出題されていますが、分子軌道論・熱力学の基本法則・分子分光学・群論に関する問題で約6割を占めています。
京大大学院物理化学はこれらの単元を重要視しているようですね。
また、基礎問題と応用問題の比率を見てみると、全体としては約8割が基礎問題で約2割が応用問題です。
京大大学院入試の物理化学と言えども、大部分が基礎問題なのです。
教科書レベルの基礎事項をしっかり理解しておけば高得点が狙えますね。
有機化学や無機化学などの他科目に比べても京大大学院の物理化学は意外に簡単です。
したがって、選択科目の1つとして物理化学を選択するのは良い戦略だと思います。
次節から解説する具体的な対策方法をしっかりと読んで、物理化学を得点源にしましょう。

【大学院入試の過去問分析】化学専攻必見!物理化学の頻出問題を解説で述べた全体の傾向と比較すると、熱力学の基本法則の出題割合が高いのは共通していますが、その他の単元の出題割合にあまり共通点はなさそうです。京大大学院ならではの対策が必要ですね。
絶対に落とせない頻出問題


どんな問題が頻出なの?対策の仕方は?
各単元の頻出問題を下記にまとめました。
〇分子軌道論
・ヒュッケル近似を用いたエネルギー固有値導出→エネルギー準位図作成
・共役ポリエンの全π電子エネルギー計算やHOMO-LUMOギャップの計算
〇熱力学の基本法則
・ギブスエネルギーなどの熱力学パラメータの定義と物理的意味
・カルノーサイクルの各過程における熱力学パラメータ変化の導出
・クラウジウス-クラペイロン式を用いた蒸気圧計算
〇分子分光学
・電子スペクトルの振動構造に関する議論(フランク-コンドン因子など)
・振動モードの種類と特徴(振動遷移に許容or禁制?)や同位体置換の振動エネルギーへの影響
・紫外線光電子分光学や赤外分光法に関する問題
〇群論
・分子軌道の既約表現を指標表から判断
・遷移双極子モーメントを計算し遷移が許容か禁制か判断する問題
〇反応速度論
・定常状態近似を用いた反応速度式導出
・前駆平衡のある複数段階反応を扱うことが多い
〇分子の運動論
・マクスウェルの速さの分布に関する関係式導出問題
〇原子軌道論
・水素原子の動径分布関数に関する議論
〇化学平衡
・ファントホフの式を用いたエンタルピー変化の計算
〇単純な混合物の物性
・理想気体や液体の混合時の熱力学パラメータ変化
これらの頻出問題の対策は大部分が前記事【大学院入試の過去問分析】化学専攻必見!物理化学の頻出問題を解説で紹介済みですので、ぜひご覧ください。
一部未解説の問題について、下記に対策をまとめました。
・カルノーサイクル:等温変化と断熱変化ではどの熱力学パラメータが不変なのかを押さえておくと立式しやすい。一度手で書きながら各段階のΔU、ΔS、q、wを導出する練習をすべし。
・クラウジウス-クラペイロンの式:温度と蒸気圧の関係が2セット分かればΔHが分かり、別の温度での蒸気圧も分かることを理解しておく。数式は問題文にない可能性もあるので覚えておこう。
・ファントホフの式:温度と平衡定数の関係が2セット分かればΔHが分かり、別の温度の平衡定数も分かることを理解しておく。数式は問題文にない可能性もあるので覚えておこう。
分子分光学と群論に関しては周りと差がつくポイントなので、次節で改めて解説します。
頻出問題は基礎問題が多いですので周りの受験生も当然対策済みです。
簡単な問題が答えられず差がつくことがないようにしっかり対策しておきましょう。

分子の運動論に関しては9年前と10年前に出題されて以降ずっと出ていないので、対策は記入しませんでした。おそらく今後も出ないと思いますが、気になる方はマクスウェルの速さの分布だけでも押さえておくと良いですよ。
周りと差がつくポイントとは?


頻出問題は皆正解するからそれだけ押さえても合格することは難しいよね。他の受験者と差をつけるためにはどうしたらいいの?
他の受験者と差をつけるためには「応用問題を解けるようになる」「よく出題されるが周りがあまり対策していない単元を押さえておく」の2点が重要です。
この2点を踏まえて、さきほどの物理化学の各単元の出題割合の図をもう1度見てみましょう。

良く出題される上に応用問題の割合が高いのは「分子軌道論」「分子分光学」「群論」ですね。
これらの単元に関しては幅広い知識と深い理解が必要であることが分かります。
特に、「分子分光学」と「群論」は他大学に比べて出題割合がかなり高いです。
また、京大大学院物理化学は複雑な現象を応用問題として扱いますが、問題文の誘導に従えば見た目ほど難しくないことが多いです。
ただ単に式変形するだけの簡単な数学の問題もよく出ます。
すなわち、差がつくポイントは下記です。
①分子軌道論・分子分光学・群論に関する幅広い知識と深い理解があるか?
②見た目のややこしさに惑わされずに基礎知識をもとに複雑な現象を理解できるか?
上記の問いに2つとも「Yes」と答えられる受験生が合格します。
どんな対策をすればいいのかを次節で見ていきましょう。

京大大学院物理化学は1つの大門に複数単元の問題が出題されることが多いです。例えば、分子軌道論+群論+分子分光学や熱力学の基本法則+化学平衡などが鉄板ですね。
周りと差をつけるためにやるべきこと


差がつくポイントは分かったけど、具体的にどんな勉強をすればいいの?
周りの受験生と差をつけるためにどんな対策をすればいいのかを、実際の出題例を見ながら解説します。
①分子軌道論→波動関数からどんな分子に関する情報が得られるか理解しておく
・エネルギー固有値を計算して終わりではなく、HOMOとLUMOはどの軌道でどんな位相か、係数の意味、共役系形成のメリットなども押さえておく
・数式変形のみの数学寄りの問題もよく出る。特に積分の解き方には慣れておこう。
*具体的には下記が出題例あり
例)エネルギー準位図のうちHOMOとLUMOがどの軌道か判断、係数の符号からHOMOやLUMOの位相判断、係数の2乗の値から各原子の電子密度推定→反応点の予測、エチレン2分子とブタジエンのπ電子エネルギー比較し非局在化のメリット議論など
②分子分光学→振動モードの種類と振動遷移、それらを検出する分光法に関する知識を身に付ける
・代表的な分子の振動モードに関しては遷移許容なのかも含めて把握しておくべき
・振動のエネルギー準位の間隔やゼロ点エネルギーや解離エネルギーの計算方法は覚えておく
・振動遷移に関してはフランク-コンドンの原理とは何か、遷移強度の決定要因(フランク-コンドン因子)、選択律を押さえておく
・分光法は紫外線光電子分光学と赤外分光法を勉強しておく(原理および測定で分かることは何?)
*具体的には下記のような出題例あり
例)二酸化炭素やナフタレンの振動モード数、二酸化炭素の各振動モードは遷移許容or禁制か?、H2とHDの振動のエネルギー準位間隔の差、核間距離に対するポテンシャルエネルギー図における井戸の深さと解離エネルギーの大小関係、フランク-コンドンの原理やフランク-コンドン因子について説明、量子数変化が±1の振動遷移が許容になる理由、紫外線光電子分光スペクトル図のバンド間隔からイオン化した分子軌道を推定、赤外活性な振動モードの定義など
③群論→指標表の見方および既約表現を用いた遷移許容or禁制の判定方法を理解する
・各対称操作に対して軌道の符号が変化するか否かを判定する練習をしておく
・「遷移許容=遷移双極子モーメントが0にならない=被積分関数の積がA1を張る=遷移前・電場ベクトルの1成分・遷移後の各既約表現の積が1」の関係を覚える
・単純な分子軌道以外にも振動モードや電子配置の既約表現も判定できるようになる
*具体的には下記のような出題例あり
例)ヘキサトリエンのHOMOとLUMOの既約表現→z軸に平行な直線偏光に対してHOMO-LUMO遷移は許容か判定、ブタジエンのシス-トランス体の各分子軌道の既約表現→電子を占有させた場合の既約表現、クロロメタンやホルムアルデヒドの振動モードの既約表現など
④見た目のややこしさに惑わされず、問題文をよく読み、誘導に丁寧に従う
・基礎事項から問題が始まり、ヒントをもとに複雑な現象を扱う問題へ発展する流れが多い
・いきなり問題を解くより先に問題文全文を読んで問題の全体像を把握した方が解きやすい
・途中の問題が分からなくてもそれ以降で解答できる問題もあるのであきらめない
差がつくポイントまで押さえておけば合格は目の前ですよ!

物理化学は全体的に重要関係式の導出問題が多いですので、あらかじめその関係式を知っておくと有利です。特に熱力学の基本法則は特にそうですね。結論を知っていると簡単だが知らないと苦労する問題が多い印象があります。熱力学の基本法則は教科書をしっかり読んで重要な関係式は覚えておきましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?最後におススメの勉強手順を示します。
Step 1:分子軌道論・熱力学の基本法則・分子分光学・群論に該当する教科書の章および授業ノートを復習
Step 2:上記4単元に関して本記事の頻出問題や差がつくポイントを勉強
Step 3:教科書の例題や授業中の演習問題を解けるようになる
Step 4:時間が許す限り他単元も同様の流れで勉強
Step 5:過去問演習(直近5年分)&復習
大学受験では京都大学は非常に難しいイメージがありますよね。
一方で、京都大学大学院の入試は他大学に比べて別格に難しいわけではありません。
教科書レベルの知識をそのまま問う問題がほとんどです。
ただし、京大大学院は受験者のレベルが高いので、本記事で述べた差がつくポイントまでしっかり押さえておくことが合格する上で重要です。
本記事と合わせて、京大大学院の有機化学・無機化学の対策の記事も合わせて読んでくださいね。
以上、ご参考になれば幸いです。
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