こんにちわ。sakuranokiiです。
大学院入試の過去問分析シリーズ第2弾は物理化学の頻出問題を解説します。
物理化学は抽象的な概念を扱うため理解するのが難しい上に、複雑な数式がたくさん出てくるので苦手な方も多いのではないでしょうか?
実際、院試までの短期間で物理化学の全てをマスターするのはほぼ不可能でしょう。
よく狙われる単元を中心に勉強するのが有力な対策方法です。
本記事で紹介する頻出問題を把握して、効率よく物理化学の院試対策をしましょう!
前記事同様に、出題頻度ランキング形式で調査結果を解説します。
第1位:反応速度論


物理化学で1番よく出る問題って何?
第1位は反応速度論に関する問題です。
反応速度論と言えば物理化学の演習問題の定番なので納得ですよね(笑)
頻出問題は下記です。
①1次反応の速度式導出および半減期や時定数の計算
※擬1次反応や副反応を含む1次反応も出題される
②アレニウスの式
※活性化エネルギーの計算や反応速度定数の温度依存性の議論が頻出
③N2O5の分解反応の速度式導出
※定常状態近似を用いた逐次素反応の速度式導出が頻出
N2O5の分解反応を始め、ラジカル反応や酵素反応など実際の化学反応について考える問題もよく出ます。
また、他単元と絡めて出題されるパターンもあり、例えばN2O5の分解速度では気体の性質の知識、励起分子の消光速度では分子分光学の知識も合わせて問われる場合がありますね。
このように様々なタイプの問題が出題されますが、基本的な知識を問う問題が多いので、反応速度論は比較的解きやすい単元かと思います。
従って、対策としては下記が良いかと思います。
・1次反応の速度式導出方法と速度を表す指標を理解する
・教科書に出てくる典型的な反応速度式の導出は自分で1からできるようになっておく
・アレニウスの式の意味や利用法を勉強する
基礎をしっかり押さえて、反応速度論を物理化学の得点源にしましょう!

物理化学は文章中にヒントを出して誘導しながら解答させる形式の問題がよく出ます。最初の基礎問題が解ければ誘導に従って全問解答まで狙える場合もあります。基礎的な法則をしっかり押さえることが物理化学は重要ですね。
第2位:シュレーディンガー方程式


2番目によく出る問題って何?
2番目に多く出題されるのは、シュレーディンガー方程式を解く問題です。
シュレーディンガー方程式に関する問題は複雑な数式がたくさん出てくるため、学生が物理化学に苦手意識を持つきっかけになりがちですね(笑)。
しかしながら、シュレーディンガー方程式を解くことは粒子の挙動=原子・分子の性質を理解する土台になるため、非常に重要な単元です。
頻出問題は下記の通りです。
①1次元箱型ポテンシャル中の粒子のシュレーディンガー方程式
※最もよく出るパターンの問題
※共役ポリエンのπ電子のエネルギーを考える応用問題が頻出
②2次元円環上を回転する粒子のシュレーディンガー方程式
※環状共役分子のπ電子のエネルギーを考える応用問題が頻出
③1次元箱型ポテンシャル中の粒子の時間依存型シュレーディンガー方程式
※問題の誘導に従いながら解く形式が多い
シュレーディンガー方程式を解いて終わりではなく、得られた波動関数から粒子の取りうるエネルギーを求め、エネルギー準位図を作図するまでが1セットと考えましょう。
さらには、電子遷移に必要なエネルギーの計算まで求められる場合もあります。
また、求めた波動関数から共役系分子中の電子のエネルギーを考える問題が頻出ですね。
1次元だけでなく2次元的に動く粒子のシュレーディンガー方程式を扱う問題も出ますので要チェックです。
対策としては下記が良いかと思います。
・基本的な1次元空間中の粒子のシュレーディンガー方程式を解く方法をマスターする
・2次元空間中の粒子や時間依存型のシュレーディンガー方程式の解法も調べておく
・波動関数からどんな情報が得られるかを導出方法含め理解する(特にエネルギー準位図作成)
・共役分子中のπ電子の挙動を考える上で利用できることを知っておく
シュレーディンガー方程式に関する問題は典型的なパターンが繰り返し出題されている印象です。
よって、過去問演習が効果的な対策になりますね。
演習を通じて問題形式に慣れれば、シュレーディンガー方程式への苦手意識がなくなると思いますよ!

数式の変換は教科書を読むだけでなく、一度は自分の手で書くのをおススメします。ちょっとしたミスで数式変換ができないと本番でパニックになるので、あらかじめ手になじませておいた方が良いですね。
第3位:熱力学の基本法則


3番目によく出る問題って何?
3番目の頻出問題は熱力学の基本法則です。
特に第1法則(エネルギー保存則)と第2法則(熱現象の不可逆性)および第1法則と第2法則の結合(熱力学の基本式)が主に取り上げられます。
頻出問題は下記ですね。
①熱機関の効率
*可逆熱機関の効率は温度にのみ依存し構成に依存しないことへの理解を問う問題が頻出
②理想気体の等温可逆膨張や断熱可逆膨張時に起こる変化
*エントロピー変化を導出させる問題が頻出
③化学反応におけるエネルギー変化
*エンタルピー変化やギブスエネルギー変化を計算させる問題が頻出
熱力学の有用性とは、ある性質の値を測定するときに、直接測定せずとも異なる2~3の性質の値を測定すれば間接的に測定できることを証明している点です。
したがって、ある熱力学パラメータと別のパラメータの間にどのような関係性があるのかが熱力学では重要であり、それを問う問題がよく出ますね。
対策としては下記が良いかと思います。
・各パラメーター(温度、圧力、体積、熱、仕事、内部エネルギー、熱容量、エンタルピー、エ ントロピー、ヘルムホルツエネルギー、ギブスエネルギー)の間に成り立つ関係式を体系的に理解する
・上記関係式の導出方法は紙に何度も書きながら理解しておく
・科学者の名前がついている理論(カルノーサイクル、ジュール・トムソン効果、クラウジウスの不等式、マクスウェルの関係式など)は問題にされやすいので調べておこう
熱力学の基本法則はまさに物理化学の基本です(笑)。
ここで学んだ概念をベースにその後の多くの単元は議論されます。
つまり、熱力学の基本法則をしっかりマスターすれば多くの単元の内容が頭に入りやすくなります。
物理化学の勉強を楽にするためには、熱力学基本法則への理解は欠かせませんよ。

熱力学の基本法則に関しては教科書をしっかり読んでよく理解することをおススメしますね。やはり物理化学の基礎なので。実際、筆者は院試勉強のために熱力学に関する章は端から端まで読みました。基礎が理解できると物理化学に対する苦手意識はかなり薄まりますよ。
4位~10位まで一挙解説


その他にはどんな問題がでるの?
最後に、頻出問題ランキング4位~10位を一挙に解説します。
どれも重要な単元であることは間違いないので、時間がある方はぜひ10位までしっかり勉強してほしいですね。
〇頻出問題:理想気体と実在気体の違い、ファンデルワールスの式
〇対策:臨界定数とファンデルワールス係数の関係を把握しておく
◯頻出問題:ボルツマンの式、分子分配関数とエネルギーの関係
◯対策:分子分配関数と各熱力学パラメータの関係式を導出も含め理解する
◯頻出問題:水素型原子の波動関数とエネルギー導出
◯対策:3次元球面上粒子のシュレーディンガー方程式の解法および動径波動方程式の意味と利用法を押さえる
◯頻出問題:ヒュッケル近似を使ったπ共役系分子の分子軌道のエネルギー準位図作成
◯対策:変分原理を使った永年方程式の立式とその解の出し方、計算したエネルギーの大小関係を理解する。規格化条件を使った係数の導出方法も押さえておこう。
◯頻出問題:平衡定数と熱力学パラメータの関係、ルシャトリエの原理
◯対策:平衡定数とギブスエネルギーの関係および平衡に及ぼす圧力の影響を理解しておく
◯頻出問題:理想気体の混合による熱力学パラメータの変化
◯対策:各成分の化学ポテンシャルとギブスエネルギーの関係を理解しておく
◯頻出問題:相転移に伴う熱力学パラメーターの変化、水ーフェノール2成分系の相図
◯対策:相境界においては2相の化学ポテンシャルは等しいことを理解しておく。ギブスの相律とてこの規則の理解および定組成線に沿ったパラメータ変化時に起こる現象を把握しておく。
上記全てをマスターすれば、物理化学の対策は十分ですよ!

大学院入試は全問解答するのではなく、自分が解答したい科目を選択する場合がほとんどです。例えば、有機化学2問・物理化学2問・無機化学2問の計6問のうち、4問を選んで解答するという感じです。つまり、どうしても物理化学が苦手な方は有機化学と無機化学だけで勝負するという手もありますよ(笑)。
まとめ
いかがでしたでしょうか?本記事の内容をまとめると下図のようになります。

物理化学の院試対策では、基本となる考え方とそこから導かれる基本的な方程式をしっかり理解することが最重要です。
複雑な数式はその基本式を組み合わせて誘導された式ですので覚える必要はありません。
覚えるべきは基本式の使い方ですよ。
問題演習を通じて基本式の利用の仕方も練習しましょう。
基礎をしっかり押さえて、物理化学から逃げていた自分とおさらばしましょう!
以上、ご参考になれば幸いです。
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