こんにちわ。sakuranokiiです。
博士課程に興味がある大学生の方はこんな疑問をお持ちではないでしょうか?
ネットで博士課程の就職は難しいってよく目にするけど本当?
普通の学生より勤勉な博士が就職しにくいのは違和感がある……
博士課程の学生として就活を経験した筆者から見ると、ネットでは博士課程の就職に関して悪い方向の誤解が多いように感じます。
そのあらぬ誤解は優秀な学生が博士課程への進学を躊躇する要因になってしまうかもしれません。
日本で優秀な研究者を育てる上で、博士課程の就職に関する正しい情報を伝えて就職への不安を払拭することは重要だと思います。
本記事は前編として「就職率に関する誤解」「専門性が高くて使いにくいという誤解」「日本企業の博士採用への姿勢に関する誤解」について解説します。
博士課程は就職率が悪いから就職が不利?
博士課程は修士課程に比べて就職率が悪いから就職が不利って本当?
博士課程の就職率の低さは博士の就職が難しい理由として非常によく見ます。
結論から言うと、理系博士課程であれば修士課程に比べて就職率は悪くありませんし、真っ当な職に就きにくいわけでもありません。
その理由を説明するために、博士課程の就職率に関するデータを詳しく見てみましょう。
令和2年度学校基本調査のデータをもとに、修士課程と博士課程の就職率・正社員率を比較すると下記になります。
課程 | 就職率 | 非正規社員率 | 正社員率 |
---|---|---|---|
修士課程 | 77.9% | 2.5% | 75.4% |
博士課程 | 69.8% | 15.5% | 54.3% |
確かに博士課程は修士課程に比べて就職率、正社員率ともに低く、特に非正規社員の割合が高いことが分かります。
しかしながら、上記の就職率はあまり実態を反映していません。
というのは、理系博士と文系博士で就職率に大きな差があるため、平均値で見ると実情からかけ離れてしまうためです。
博士課程の修了者は圧倒的に理系が多いため、理系博士に絞って再計算してみましょう。
課程 | 就職率 | 非正規社員率 | 正社員率 | 非正規のうちPDの割合 |
---|---|---|---|---|
修士課程 | 77.9% | 2.5% | 75.4% | – |
理系博士課程 | 74.9% | 15.2% | 59.7% | 51.2% |
理系博士に絞ると就職率は修士課程とほとんど変わらないのです。
一方で、非正規社員の割合は理系博士でも高く、正社員率は低いように見えます。
では、なぜ博士卒の非正規社員が多いのかを考えてみましょう。
上表にもあるように、理系博士卒の非正規社員のうち半分以上はポストドクター(PD)です。
大学教員を目指す方はまずはPDとして修業を積む場合が多いので、博士卒の一定数は必ずPDになります。
また、あまり知られていないと思いますが、新人大学教員(助教)になれても最初は基本的に任期付きの非正規です。
したがって、大学教員を目指す博士は基本的に非正規社員としてスタートするので、博士卒の非正規社員人数は修士よりはるかに多いのです。
そして、その非正規社員はアカデミックポストを目指せる非常に優秀な博士です。
優秀なので将来的には無期ポストを取る人が多いし、ダメなら企業に転職することもできる方々です。
つまり、博士卒の非正規社員は一般的にイメージされる就活に失敗した人ではありません。
上記を念頭に考えると、博士卒の就活の成功は正社員率の数値そのままでは議論できないと思います。
理系博士卒で真っ当な職に就いた人&将来的に就く可能性が高い人の割合を考えると、正社員率約60%+PD率約8%+すぐに助教になれた人約2~3%=70%以上はあるのではと筆者は考えます。
7割が真っ当な職に就くのであれば、修士課程と大差ないように思いますね。
アカデミックポストを獲得するのが難しいのは博士課程の学生が一番よくわかっています。それでも目指すのはそれなりの勝算(優れた研究実績がある、コネがある、ダメでも企業就職できる自信がある等)があるからです。筆者の同期のPDは就活したらどの企業でも受かりそうな超優秀な人しかいません。PDを甘く見ないでくださいね(笑)。
博士課程は専門性が高すぎて採用されにくい?
博士課程は専門性が高すぎて採用されにくいって本当?
博士課程は専門性が高すぎて使いにくい人材だから就職が不利であるという話も非常によく聞きます。
結論から言うと、博士課程は専門性の高さではなく「専門性を高める過程で得られた能力」をアピールすれば、就職で不利になることはありません。
入社後も大学時代の研究対象と全く同じ仕事をする可能性は低いので、専門知識しかない人は確かに企業にとって使いにくい人材です。
ですが、博士課程で身に付くのは本当に知識だけでしょうか?
1人前の研究者として高い専門性を身に付ける過程で他にも下記のような能力が養われたはずです。
・研究が思うように進まなくてもあきらめなかった「粘り強さ」や「チャレンジ精神」
・研究課題を自分で考えて進めることで養われた「主体性」や「課題発見力」
・研究で壁にぶつかったとしても何とか論文に仕上げた「課題解決力」や「論理的思考力」
・教員と日々研究の進捗や進め方を話し合うことで鍛えられた「議論力」や「質問力」
企業は専門知識の多い学生より上記のようなあらゆる場面で活用できる能力がある学生を好みます。
どの博士でも大なり小なり上記のような能力は鍛えられたはずです。
知識が多い「だけ」の博士と思われる原因は上記の能力を意識的にアピールしていないからでしょう。
博士課程の学生は自分の研究を愛するがあまり、ついつい実験方法や原理の細かいところを熱心に話したくなりがちです(笑)。
しかしながら、企業の面接官は貴方の研究成果よりポテンシャルを知りたいのです。
成果をアピールするだけでなく、その成果を得るまでの苦労話もして研究者としての素養の高さをアピールしましょう。
具体的にどうすればいいのかは過去記事「博士課程の就職体験記~ESに書いたこと編~」「博士課程の就職体験記~面接での受け答え編~」をご参照ください。
類似した誤解として、「博士は大学の研究室生活が長く独自のスタイルを持っているため自社好みに育てられないから採用されにくい」という話も聞きます。ですが、筆者の経験上は企業に入ると嫌でも研究の進め方は変えざるを得ないので、よほど頑固な博士でない限りは独自スタイルを貫く人はいないと思います。博士は就活で企業のやり方に合わせられる柔軟性もアピールした方がいいかもしれません。
日本企業は博士採用に積極的ではない?
日本企業が博士採用に積極的ではないって本当?
日本企業が博士採用に消極的であるため、博士課程に進学すると就職が不利になるという話も非常によく聞きますね。
結論から言うと、全企業がそういうわけではなく、博士採用に積極的な企業は普通にあります。
過去記事「博士課程におすすめの就職先・業界とは?」で解説しましたが、「製薬」「化学メーカー」「電子・電気・OA機器」は博士採用に積極的な業界です。
上記の業界以外でも、基本的に各業界を代表する大企業は研究開発に力を入れているので、博士採用に積極的です。
筆者は化学メーカーに勤めていますが、新入社員の経歴を見ると、年々博士の採用数が増えていることを実感します。
実際、令和2年度学校基本調査によると博士の就職率は年々増加しているようですよ。
博士の受け皿が広がってきていることは確かですが、もちろん修士卒に比べるとまだまだ企業の選択肢は少ないので、博士が企業を選ぶ際にはコツが必要です。
博士が就職先を選ぶコツとは、自分の専門分野が活かせる事業を行っている企業を選ぶことです。
上記は修士卒でも重要ですが、即戦力性を求められる博士卒の場合は特に重要ですよ。
1点注意してほしいのは、ここで言う専門分野は少し広めに捉えることが肝要です。
例えば、筆者は有機金属化学が大学時代の研究対象で本当の専門分野ですが、もっと広く捉えて有機化学に関する事業であれば自分の得意は活かせます。
専門分野を広く捉えることで、企業の選択肢を限定しすぎないようにしましょう。
また、主力事業でなくてもマッチしている事業があれば採用のチャンスは大いにあります。
そういう意味でも多くの事業を展開している大企業はおすすめですね。
主力でない事業は少数精鋭で進めている場合が多いので、博士はもってこいの人材だと思います。
博士課程の就活の攻略ポイントは、博士採用に意欲的で、かつ、自分の得意を活かせる企業を見抜いて中心的に攻めることです。
博士採用に意欲的かは採用HPや四季報(研究開発費の比重を知るため)から、事業内容は有価証券報告書や研究室OBOGから情報を集めるのが有効ですよ。
自分の専門を活かせる事業を行う企業はどんな分野の人でも最低5~10社以上は有力候補があるはずです。就活中に全力を出して選考対策できる会社数はそう多くないので、5~10社程度の選択肢があれば十分かと思います。就活生は何十社も手当たり次第にエントリーしないといけないルールなんてありませんからね(笑)。
まとめ
いかがでしたでしょうか?本記事の内容をまとめると下記のとおりです。
博士課程の就職に関して、少数派の博士のネガティブ発言が目立ってしまっている印象があります。
悪い情報の方がどうしても目に付いてしまうため仕方がありませんね。
さらに、そのネガティブ発言をもとに博士課程の就活を実際に経験していない方が想像であることないこと情報発信しているようです(笑)。
その結果、博士課程の就職は悪い方向の誤解が多いのでしょう。
情報収集する際は「情報発信している人は誰か」「情報源は何か」「いつ頃の情報なのか」「どんな目的で発信しているのか」を意識してほしいです。
正しい情報をもとに、自分の進路はよく考えましょう。
以上、ご参考になれば幸いです。
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